三十二歳独身OLが事故を起こし何の間違いか漫画の世界へ転生。
忍の道を歩み人生を全うし安らかに眠れそうだと思ったが、そうは問屋が卸さないのか、また変な世界へと転生したようだ。
私より数分遅れて生まれた弟がルフィと呼ばれている時点で気付くべきだったのだが、如何せん、この世界の知識は皆無である。
六歳になった頃、赤髪海賊団が村を訪れ漸く脳内のピースが揃った。
忍者漫画と同誌で連載されている海賊の世界らしい。よりにもよって大航海時代ですか。
フーシャ村で育ち、両親がいなくとも村人が家族となり平和に暮らしていた。
紹介が遅れたが、私の名前は モンキー・D・。双子の弟はこの漫画の主人公らしい。
また姉という立場に複雑な心境ではあるが、悪い気分ではない。
「こら、ルフィ、。また泥だらけにしたわね〜!」
雨が降った後は水溜りを求めて外へ飛び出すのがお決まりのお年頃。
勢いよく水溜りに飛び込んでは服を泥で汚したり、泥団子を作っては投げ合っていた。
そして最後はマキノさんに怒られるというのが一連の流れである。
服を着たまま頭から水をかけられゴシゴシと洗われ、他の洗濯物と一緒に干されています。
そんな情けない姿をシャンクスに見つかり、腹を抱えながら笑われる。
「笑いすぎ」
いい歳して無邪気な馬鹿笑いに腹が立つ。
十分乾いたところで自ら強引に洗濯ばさみを外し、自分の身長よりあるであろう高さから華麗に着地。
それを見て同じようにしようとも、まだルフィにはそこまでの身体能力はない。
何故、私は出来るのかって? 前世の経験値のお陰だろう。神殿で転職し、レベルはゼロだが前職の能力が使えます的な。
諦めるという言葉がルフィの辞書には載っていないようで、彼は暴れて空回りし、伸びた腕が紐に絡まる始末。
弟は『悪魔の実』と呼ばれる特殊能力が手に入る実を食べてしまい、ゴム人間になってしまったのだ。
その代価に、一生海に嫌われるというカナヅチになってしまったが。
ルフィを下ろしてもらおうとシャンクスに頼むが、いたずら小僧のような笑顔で「ヤダ」と言われたので脛を蹴り上げといた。
呆れたベックマンが蹲る船長を横目にルフィを下ろすと、少しだけ不機嫌な表情を見せたが、私が次の遊びを提案すると途端に満面の笑みを浮かべ
「おう! 裏山まで競争だぞ!」
「んじゃ、よーい…… あ! ずるいルフィ、ドンって言う前に走った!」
何処にそんな体力が残っているのやら。ルフィは裏山目掛けて駆けて行く。
子供らしい演技をし、同じように遊ぶものの彼の自由奔放・天真爛漫な行動にオバサン疲れたよ。
私の精神年齢は前々世の三十二歳で止まっている。いや、それから更に年齢を重ねてきているのでプラス── 考えるのはやめよう凹むわ。
脳内を切り替えてシャンクス達と別れ、裏山へとルフィを探しに走る。
「ルーフィー!」
山の入り口で木霊する私の声。驚いた鳥達が数羽飛び立つ。
山には入るなとマキノさんや村長さんに耳がタコになるほど言われているので、奥まで行くことはない。
いつもなら入り口付近で虫を探しているのに、それを追って入ってしまったのだろうか。
何度か名を呼んでみるが返ってこない。
気配を探ろうにも広範囲すぎて、今の私では無理そうだ。
しかし、段々といいようのない不安が広がってくる。
それは私自身のものではない。ルフィの感情だ。
私の存在が側にないと、彼はとても不安に駆られるらしい。
その不安が双子の私に伝わる。それは言葉に言い表せない漠然とした感覚。
それは双子だけの不思議な繋がり。
「ルフィ」
「!!」
私の声に驚いたが姉だと認識すると飛びついてきた。
黒い大きな瞳に溜まった涙が流れる前に見つけられてよかったと抱き締め返す。
ルフィと抱き合うととても安心する。
お互いの鼓動を感じ、お互いの心が重なる。まるで母親の胎内にいるような──
ルフィの手から解放された蝶が、青く澄んだ空へと高く、高く舞い上がっていった。
20130816 ややこしい設定デス…俺得