里外の静かな森にしんしんと降る雪。
その雪が、枝から枝へと飛び移る音さえも吸収し、風の音だけが耳に残る。
寒さに麻痺してしまった身体と、殺戮行為に麻痺した心。
どちらが、より冷たいのかと考えて自嘲する。
任務報告を終え、そのままの足で向かうある場所。
まだ部屋に明かりが点いていることを確認。
玄関の呼び鈴を押すと返事と共に鍵が開く。
女性の一人暮らしは物騒だからちゃんと鍵を掛けなさい、との言いつけを守っているようだ。
「おかえりなさい!」
「っと、ただーいま」
挨拶と同時に飛び込んでくる。
汚れたままなので慌てて離そうにもこれがなかなか離せない。
観念したオレは、肩を掴んでいた両手を下ろし彼女を包む。
お風呂上りであろう彼女は暖かくて、触れた場所から熱が伝わってきた。
麻痺していた身体も、心もじわりじわりと溶けていく。
の全てがじんわりと沁み込んでくる。
彼女はオレの冷えた身体を温めようとしているだけだろうが。
でも、その行為が心も溶かしているなんて思ってもいないだろう。
「お風呂出来てるよ」
「ありがと。一緒に入る?」
「ばっ、馬鹿! もう私は入ったから!」
「うん、知ってる。からいい匂いがするから」
顔を真っ赤にして離れようとオレの胸を押すが、今度はオレが離さないよ。
シャンプーの香りを漂わす黒髪に顔を埋める。
返り血が付いちゃうな、と脳の何処かで思いながらも包み込む手は緩めず、しかし──
「もう少しこうしていたいけど、なーんか焦げ臭いんだよねぇ」
「え? あ、きゃぁぁぁ!!」
慌ててグリルを開けると真っ黒になった物体が二つ。
オレはクスリと笑うと勿体無いから食べようと提案。
焦げた魚でも誰かと一緒に食卓を囲めることは何よりも暖かく、幸せであると思うから。
「いただきまーす」
「はい、めしあがれ」
木ノ葉の里にも雪が舞い降りてきたようで。
明日はホワイトクリスマスだなと、口の中に広がる苦いけど美味しい魚を噛み締めるのだった。
2012.12.23