正しい 救命
方法

海が時化ると、もう私にはどうする事も出来ない。あぁ。凪の帯カームベルト)が恋しい。
後ろでみんながナミの指示に従いバタバタと走り回っている。

「早く…嵐を、抜けない……うえっぷ。はぁ…」

1人トイレに篭っている訳にもいかず、甲板に出て来たはいいが矢張りものっそ気持ち悪い。
いい加減船酔い慣れろよ自分。冒頭からヒロインの台詞が「うえっぷ」ってお食事中の方に失礼だろ自分。
船の端に上半身を乗り出し荒れる海を覗き込む。別に好きで覗き込んでいた訳じゃないからね!(ツンデレ風)

「ちょっと、大丈夫なの?」

嵐を抜けて余裕が出来たのか、ナミが背中を擦ってくれ一応心配をしてくれる。
時化は引いてないので、私の気持ちの悪さもまだ最高潮だ。手を挙げて気のない返事をするしか出来ない。
すると、海の中の何かと目が合った。

「え…?」

突如大きく船が揺れ、海から巨大なイカらしき海王類が飛び出して悲鳴を上げているナミを捉えようと触手を伸ばしてくるのが見えた。

「ナミっ!!」

その後どんな行動を取ったのか記憶に無いが、誰かが私の名前を呼んだ気がした。


「何がどうなって、こうなった?」

気が付くと何処かの島の砂浜。
一緒に打ち上げられたと思わしきイカ。まさか、これは遭難というヤツですか?
恐る恐る見ると、イカは触手が斬られ倒れている。
海水でべた付いた髪をかき上げ、切り口を見ているとイカの向こう側に見知った緑色の物体があった。

胃の中の物を全て海に寄付して、しかも遭難したっぽい私は重い体に鞭を打って砂に足を囚われながらイカに警戒しつつ緑まで辿り着く。

緑の物体――いや、ゾロが倒れていた。

「ゾロ…ちょっと、大丈夫?…ゾロ!」

うつ伏せの彼を仰向けにし、肩を思いっきり揺さぶる。本当は倒れてる人に対して激しく揺さぶってはいけません。
だがこの際、野獣と呼ばれる化け物なら大丈夫。死にはしないだろう。
一向に起きない彼にイラついて頬を叩く。少々、力入れすぎたかなぁ?と思ったがまだ目を開けてくれない。

「ゾ、ゾロ。やだ……起きてよ。」

段々と悪い方向へと思考が行ってしまい不安になってきた。胸に耳を当てると心臓の音がしたので、取り敢えず胸を撫で下ろす。
だが、息をしていない事に気が付いて私はプチパニックになってしまう。

「ちょっ!? マジ?! こ、こう言う場合は、えっと…」

ベタな展開ですか!?

心臓は動いてるんだったら、腹を1発殴れば息を吹き返すんじゃね?そして、何処かの芸人がやるやつみたいに口からピューって水が出てくるんじゃね?それ、見たいかも。

「うん。やってみる価値はあるよな。」

ポキポキと指を鳴らし、ゾロのお腹目掛けて拳を振り下ろす。だが、拳は彼のお腹に到達する前に止められた。

「素直に人工呼吸って考えが浮かばねぇのかよ!!」
「おおぅ!? びっくりした、起きてたのかよ。」

期待した俺が馬鹿だった…とか聞こえたが馬鹿なのは最初っから知っているのでここは無視しよう。
それより何故、私とゾロ(と、イカ)がこんな所に打ち上げられていたのか質問した。

時化た海からイカが出現し、ナミを捕らえようとしたがが身代わりになり、怒ったルフィの拳が決まったが、そのままイカと共に海へと落ちてしまった。それを追ってゾロが飛び込んだらしい。

「それは、ありがとうございます。お手数をお掛けしました。」

ナミを助けた事もイカと共に海にダイブした事も一切記憶に無いが、ここは素直に謝っておこう。

「お前、もしかして人工呼吸の仕方も知らねぇのか。」

保健の授業で1回やったが、不真面目な私は記憶に無い。ってか、アレだろ。口と口だよな。キスには入らないかもしれないが、ちゅーだろ。
意地を張って「知ってる」と言いながらも目が泳いでしまう。
そんな私を見てにやりと笑ったゾロを見て、悪い予感がした。


倒れている人に声を掛け意識の有無を確認。
周りの人に医者等を要請。(救急車って事)心臓と呼吸を確認。
無ければまず、気道確保。異物が喉に詰まってないか確認。
鼻を摘んで空気が漏れないようし、胸の上下を確認しながら空気を肺に送る。
そして、心臓マッサージ…また、人工呼吸。と、それを繰り返す。

「―― のが、心肺蘇生術だ。」

あれ?人工呼吸から一段階レベルアップしてない?

「何で私、寝かされてるの?」

そして、顔が近いんですけど!
私の悪い予感は当たって、気が付いた時には組み敷かれた格好になっていて息が掛かりそうな距離で説明を受けた。

が知らねぇらしいから、体で教えてやろうと思ってな。」
「説明で覚えたから激しく遠慮します。」
「いざ、必要な時が来て狼狽えて出来ねぇと困るだろ。」

「大丈…ぐっ!?」

ゾロが私の横に移動して、ぐいっと顎を持ち上げられ気道確保されたらしい。
「待って!」と言う前に口をそれで塞がれ、空気を思いっきり肺に送り込まれる。



ちゅわ〜〜〜ん。」

あれから30分後にはメリー号が救助に来て、無事に仲間の元に戻れたとゾロ(イカは夕飯)

みんなが来た時、ゾロはそれこそ蘇生術が必要じゃないのか?と、いう状態でチョッパーが「イカにやられたのかっ!医者ぁぁぁ!!」と、いつものように騒いだ。
ナミがゾロの事について尋ねると、「めちゃくちゃ苦しかったんだ!!」と回答が返ってきた。

みなさん、生きている人に息を送ってはいけません。



(じゃ、普通のするか?) (『普通』って何だ) (こういうのだ) (!!??)