嘘の 半分は
本当


「えっ……?」


仕事帰りの彼女に偶然にも出会い、ニヤつく顔をを抑えていた矢先のことだ。
明日、他の里へと移住すると告げてきた。しかも既にアパートを引き払ったと。

付き合って一年。一週間前には同棲の話題が上がっていたのに。
多忙な役職で寂しい思いをさせたのか。オレ自身に呆れたのか。他に男ができたのだろうか。
様々な思考が巡り無言になった俺をよそに、は新居に期待を膨らませている様子で足取り軽く、立ち止まったオレに気付かない。
ふわりと菜の花の香りが届いたが、オレの春は遠ざかったようだ。


「カカシ?」


彼女が振り返って呼んだのと同時に、煙草の匂いを引き連れたアスマがオレの肩を叩いた。
飲み会への誘いらしい。
いつもなら断るが、今日は飲みたい気分だ。


「たまには付き合わないと誰かサンが煩いからねぇ」


暗に同期の女性を指し誘いを承諾すると、予想外な返答に目を見張る友人。
いや、お前が誘ったんでしょうが。
驚いた表情のまま、駆け寄ってくるとオレを交互に見やりいいのかと尋ねる。
彼女は少しだけ不機嫌になりながらも快く飲み会出席に支持するものだから、オレは更にどん底に突き落とされた。

その後、彼女と別れていつもの上忍行きつけの店へと足を運んだのは覚えているが──


目が覚めると自身のベッドの上。太陽は真上に昇っている。
記憶が飛ぶ程飲んだのは久し振りだ。
頭痛と吐き気を押さえながら身を起こすと、焼けた魚の香りが漂ってくる。
鉛のように重い体を動かし、匂いの出所に向かう。

リビングダイニングの扉を開けると、より一層香りが立ち込める。
キッチンには知れた後ろ姿があった。
二日酔いを忘れ、台所に立つ人物を凝視する。

後ろで束ねた黒髪と、腰で留めたエプロンのリボンが同方向に揺れる。
まだ自分は酔っているのだろうかと数度瞬きをした。
オレの気配に、グリルを開ける手を止めて彼女が振り向く。
間抜けにも口が開いたままのオレ。どうしたのかと首を傾ける彼女。


「えーと、あれ? 何でいるの?」

「彼氏の家に彼女がいちゃダメなの?」

「彼氏って…… オレって捨てられたんじゃ」

「誰がカカシを捨てたの?」

「君が」

「いつ?」

「昨日」


頭痛が振り返してきたのと同時に、この問答にイラついてくる。
苛立つ気持ちと眉間を押さえながら昨日の会話を脳内で繰り返してみた。
彼女は里を出る。そしてオレを捨てた。
『別れる』や『捨てる』とは言ってはないが同じことだろ。

苛立つオレとは対照的に何処か楽しげなは尚も質問を投げる。


「昨日? 昨日って何月何日?」

「は?」

「昨日って何の日?」


そこで漸く彼女の言動を理解する。
昨日は四月一日、そしてエイプリルフール。
里を離れるなんて嘘を言ってオレを騙したわけね。

そうと分かると体中の力が抜け、安心と同時に情けなさが押し寄せその場に蹲まる。
彼女の嘘も見抜けないとは忍失格だな。
落ち込んだオレを察して、頭を撫でながら


「それだけ私を信用してくれてるってこと、かな」


改めて彼女の偉大さを知る。
そして、軽く唇を合わせ抱き寄せる。

ふと、の肩越しに山積みにされたダンボールが目に入った。
彼女の字で『食器類』『服』など書かれている。
どうやら、嘘の半分は本当のことだったらしい。

新しい同居人を改めて抱き締め、春の到来を全身で味わうのだった。







2013.04.02 一日遅くなりましたが、柏木風様お誕生日おめでとうございます!ヘタレなカカシが出来ますた…