シャンクスに影響され海賊になるという意志を固くしたルフィは、ガープおじいちゃんにボコボコに殴られ山に連行された。
祖父は海軍の英雄と呼ばれ、海の治安を維持する立場としては怒るのも当然で
しかしコルボ山に住んでいる知人の山賊に、ルフィを押し付けるとは教育方針斜め上デスヨ。
獅子は我が子を千尋の谷に落とすのことわざを実行する豪快人で。実際、その谷に落とされたり、夜の森に放り込まれたりした。
お前は海賊にならないよな?と鼻水まみれで泣かれれば首を縦に振るしかなく、まだ海賊に疑念の残る私はそれが正しい選択だと言い聞かすのだった。
彼と別々の生活も慣れた頃、私は様子を見にこっそり入山してみることにした。
いくつもの大木に蔓と苔がオブジェのように絡み、光りを放ち独特な雰囲気を作っている。
幼女の歩幅ではすぐに日が暮れてしまうと感じた私は、忍のように木から木へと渡ることにした。
ずしんずしんという地響きを立て闊歩する巨大熊を眼下に、歩きでなくて正解だったと冷や汗を拭う。
この世界では、生物全てにおいてスケールが大きいらしい。
祖父に頼み手に入れた図鑑には、巨人族や海王類、植物や昆虫も大小様々な生物が記載され、目を輝かせながら弟と読んだ記憶がある。
実際目の当たりにして驚愕。通常の熊の数十倍はある。
凶暴さが全面に出ているその熊が、二本足で立ち右腕を上げた。
川で鮭を仕留めるかの如く軽く振り上げたそれの標的は、必死の形相で走る双子の弟。
名前を叫ぶ暇などなく、私は前世で培った忍の能力を引き出す。
チャクラを足に溜め、勢いよく木を蹴り熊に突進。
渾身の頭突きが改心の一撃となり、熊は白目を剥きゆっくりと倒れる。
咄嗟のことで仕方なかったが何故頭を使った自分!
と、後悔しながら痛さに悶絶していると、ルフィの他に子供が二人寄ってきた。
「ど、どちら様ですか?」
「お前こそ誰だ!」
丁寧に尋ねたが逆に突っ返され、仁王立ちで見下ろしてくる黒髪そばかすの少年。
それをなだめようとする、ゴーグルの付いたハット帽子をかぶった少年。
涙と鼻水を撒き散らしながら飛びついてくるルフィを受け止め安堵の抱擁をする。
彼らはルフィの知り合いらしく、私への懐き具合に警戒を解き自己紹介をした。
「ルフィの姉ちゃんなのか」
「姉というか、双子だから」
「まぁ、おれらにとっては 妹 が出来たってことだな」
「えっ、芋?」
「いもうと」
「イモ ト?」
「ワザとか?」
待て妹ってなんぞと説明を求めると、ルフィ達三人は兄弟の盃を交わしたとのことで。
私を盃兄弟に含めるのはおかしいと訴えても、既に彼等の中で私は『妹』ポジションにいた。
それから何度か山に入ってはルフィ達と冒険をしたり手合わせをする。
幼少の頃のこの経験は後の糧となるのだろうと、祖父の教育方針を改めて感心したのだった。
「おい、。これやる」
「…… ありがと」
エースから食べてはいけない系のキノコを押し付けられ苦笑いを浮かべていると、サボから一輪の白い花を手渡された。
最後にルフィが自慢げにムカデをを差し出してきので丁重に断る。
記念日でもない日に何事かと手にある物を眺め、離れた場所で内緒話をする三人を見て察した。
本当に私にあげたかったのはサボのみで、そのカモフラージュか後押しなのか、エースとルフィも品物を用意したということか。
その一輪に込められた想いはまだまだ未熟な感情で、私は小さな花を図鑑の間に挟み押し花にした。
そのお返しに、三人にクッキーを焼いたのはついこの間のことで──
サボの訃報を耳にしたのは数日後のことだった。
それから私は山に入ることを拒み、ルフィ達とは会うこともなかった。
兄弟という絆で結ばれた三人を目の当たりにしていただけに、二人の顔を見るのが辛い。
そして彼の死の原因を調査し、この世界の仕組みと理不尽に落胆した。
穏やかな表面の裏には黒く渦巻く深淵がそこにあるのだと知る。
それから私は祖父の希望通り、海軍に入ることとなる。
雑用として多忙な日々を過ごし、休暇はマキノさんに会いに村に帰省すも彼らには会わずにいた。
会わずにいると切欠を失い会いづらくなっていたので、今更どんな顔をして会えばいいのだろうというのが実情だが。
七年という歳月は長いようで短く、雑用から一等兵にまで昇格した私は、休暇でいつものように帰省していた。
マキノさんとショッピングを楽しみ、明日にはまた戻るというスケジュールで早めに就寝する。
コツンという音に目が覚めた私は、再び鳴った音で窓に小石が当る音だと起き上がる。
カーテンを開けると窓の向こうには、ずっと会いたいと思っても会わなかった二人が手を振っていた。
思わず上げそうになった声を辛うじて手で押さえていると、彼らが手招きするので靴を履いて窓から飛び出す。
力強く腕を掴まれ走り出す。しかも両方から引っ張られれば走りづらいことこの上ない。
抗議の声を上げる暇もなく、転びそうになりながらも駆ける。
漸く止まったと息を整えながら顔を上げると、そこは海と空が繋がっている場所で──
満点の星空の下、満面の笑みを捉える二人。星の瞬きよりも輝く笑顔。
何故会いに来なかったのかと責めることもせず、その期間を埋めるかのような二人からの抱擁が待っていた。昇天しかけた
「久し振りだな、!」
「やだよもぅ、たくましく成長しちゃって〜」
「どこのオバチャンだよ」
「にししっ」
目の前には、たくましい胸板腹筋の自称兄と、私と同じ背丈になった弟の姿。
照れ隠しに近所のおばさんの真似をしてみるが、突然の再会と抱擁と胸板に真っ赤に染まりつつある顔は隠しきれない。
パタパタと手で顔をあおぎながら、今までのことなどを聞いているうちに会話は盛り上がり、いつの間にか日が昇っていた。
エースは今日、立派な海賊を目指し一人海に出るという。
私も今日中に発つということを知らない筈なのに、絶妙なタイミングでの再会。
そして、彼らは私に気を使って会わなかったんだと気付き、入山を拒んでいた過去の自分を叱咤するのだった。
「見送りは出来ないけど、活躍を楽しみにしているね」
「海兵がそんなこと言っていいのか?」
「捕まえ甲斐があるってもんでしょ」
怖い怖いと身震いをする真似をしながら馬鹿にしたような笑いを浮かべるエースに、拳を繰り出す。
少々本気のその拳はいい音を響かせ彼の掌に埋まる。別に腹を立てた訳ではない。
激励の意を込めた拳に気付いた彼もまた、同じように拳を振ってくるので受け止める。
そして互いに笑顔を向けて、再び会えることを心で願う。
その数ヵ月後、エースがスペード海賊団を立ち上げたと耳にするのだった。
20131014 海軍ってそう簡単に休暇取れて故郷に帰れるのだろうか