「あっつ・・・・・・あーもーアンタら見てるだけで暑いんだけど」
「いや、仕方ないだろ・・・・・・ツナギは一応俺らのコスチュームというか、ユニフォームというか」
「シャチうるさい」
「剥塔b!!ラクスほんと俺に酷い!!!」
「はいはい。あ、ペンギン。針路のことなんだけど」
「ん?ああ、次は夏島なんだろう。どうりで暑いわけだ・・・・・・」
「 何故上だけ脱ぐ。帽子取ろうか」
「そんなに俺の素顔が見たいのか?(真顔)」
「私これだからペンギンって苦手」
「おいラクス、次は夏島か」
「そうですよキャプテン、――――って何で全裸に帽子だけかぶってんだよォォオオオオオオオオ!!!!」
「暑いからな」
「馬鹿!!この馬鹿!!!」
これだから夏島は嫌いなんだ。
この馬鹿しかいない船の航海士である私は、次の島が『夏島』で、しかも『倭の国』の系統の島だということをクルーに告げて回った。この船の大半の奴は夏島と聞くと嫌そうな顔になる。
この船のクルーは“北の海”出身者が異常に多い。
私は新世界の生まれだから別に関係ないけれど、彼らはあんなに着込んでるせいもあって暑さに弱い。ものすっごい弱い。
クルーは嫌そうな顔で終わるからいいんだけど、キャプテンはネジの外れた変態なので先ほどのような奇行に及ぶことが多々ある。本気でやめてほしい。
しかも帽子だけかぶったままとかより変態くさい。
ああいうのがなければ普通にカッコいいというのに。
「キャプテン、服は着ましたか」
「ローって呼べって言ってんだろ」
「『航海士』である間はキャプテンもしくは船長呼びだって言ったでしょう」
「・・・・・・」
「で、キャプテン」
「・・・・・・」
「・・・・・・せんちょー」
「・・・・・・」
「ええいガキですかアンタは!!ローって呼べばいいんでしょローって!!」
「それでいい。で、どうした」
「服は着ましたか」
「ああ」
「じゃあ入りますね」
船長室を開けると、いつも通りのパーカーを着たローが椅子に踏ん反り返っていた。暑くないのかな。
次の島に関する書類をこうやって提示するのも習慣になってしまった。ログの日数だって調べておかなければどうしようもない。
今度の島は確かに『倭の国』の系統だった。建物も全部そんな感じ。ちなみにログは三日で溜まるらしい。
ちょうど島をあげてのお祭りと到着予定日とが重なっているから、クルーたちも喜ぶだろう。
ローが書類に目を通している間、私はぼんやりとそんなことを考えていた。
「おい、ラクス」
「え?あ、ああ・・・・・・何?」
「お前は島で行きたいとこあるか」
「いや、別に・・・・・・服は前の島で結構買っちゃったから」
「じゃあ俺に付き合え。いいな?」
「・・・・・・アイアイ、キャプテン」
「黙れ」
「だから何でズボン脱ぐのやめてやめて」
変態の相手は面倒だ。
その変態に恋してる私はもっと面倒だ。
ああ、ほらまた、頭を撫でられるだけで顔が!!赤く!!
「あっづ」
「さっきからうるさいよロー」
「うっせェな・・・・・・つか、脱いじゃ駄目か」
「駄目です」
「そうだよなァ、他の女に俺の裸は見せたくねェよなァ」
「海に還れ」
「冗談だ」
街を二人で並んで歩きながら、ローとどうでもいい会話をするのは結構好きだ。
島に着いた途端、暑さにうだっていたクルーたちも嬉々として街に繰り出していった。私はローと二人で別行動だけど、何だかんだ言って毎回のことなので、特に違和感はない。
「ロー、何買うの」
「すぐに分かる」
「そう」
「・・・・・・なァ」
「何?」
「・・・・・・いや、何でもない」
暑さで頭でもおかしくなったのだろうか。・・・・・・ああ、それは前からだっけ。
徐々に人通りが多くなってきたと思ったら、急に手が冷たくなった。慌てて見てみると、ローの手が私の手を掴んでいた。そういえばこの人、やけに体温が低かったっけ。
私のと大差のない白さが目に痛い。海賊のクセに不健康だ。
・・・・・・というか、手!!
「あ、あの、あのさ」
「何だ」
「手、別に平気、」
「いいだろ別に」
ああもうこの男ほんと死ねばいい。
そのまま手を引かれ、店に入った。なにやら綺麗な布ばっかりが置いてある店で、私がぽかんとしていると、ローが「ここに座ってろ」と店の入り口付近にあった椅子を指差した。
大人しく腰掛けるとローは店長らしき男と二人で店の奥に消える。何を買うんだろう。
危ないものじゃないといいなぁ、なんて暢気に考えながら、私はローが戻ってくるのを待った。
笛や太鼓(というらしい)楽器の音に、他の島では見かけない形の屋台。何かの果物をそのまま固めた飴や、ふわふわした白い・・・・・・ああ、これは綿菓子か。
しかし非常に歩きにくい。カラコロと音を立てるこの靴は、やけに重くて痛いのだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・で、あの。そろそろ何か喋っていただけませんかロー船長」
「・・・・・・」
「おーい」
「・・・・・・」
「ねぇ、ロー」
ローはあの店で、倭の国伝統の『浴衣』というものを購入したらしい。ローの分と、私の分。
船に帰ったらそれを押し付けられて「これに着替えろ」とな。キャプテンは変態のくせに変なところで横暴だ。
しかしいざ着替えようとしても着方が分からない。結局着れるところまで自分で着て、あとは恥ずかしかったけどローにお願いした。
そのときからずっとこの有様である。どうしたらいいんだ。
私のほうを見ようともしないし、目が合ったと思っても凄い勢いで逸らされる。
なのに、手は痛いぐらいに握られたままで解放される気配はない。
だから私にどうしろと。
「ロー、」
「・・・・・・」
「・・・・・・何か気に入らない?」
「・・・・・・いや」
「お、喋った」
「・・・・・・お前がうるせェからだろ・・・・・・あー・・・・・・」
「何か悩みでもあります?聞いてあげてもいいよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おーそうだな、俺んとこの航海士が可愛すぎて困るんだがどうしたらいいと思う」
「え、あ、あれ?」
「ずっと我慢して見ないようにしてたんだが、見て欲しそうに呼んでくるモンだからついに見ちまったな。というわけで大人しく待つのはやめだ」
「は?あ、ちょ、待て、待つんだロー」
なに、何がどうなってるのこれ。
私が立ち止まると、ローも立ち止まる。二人で人の流れに逆らいながら立ち尽くす。
「いい加減貰ってもいいよな?」
にやりと笑ったローがやけにカッコ良かったので、私は思い切り目を逸らした。
「キャプテンとラクス遅いなぁ・・・・・・」
「ついにキャプテン言ったんかな」
「いやーあれで中々ヘタレだぞ俺らのキャプテンは」
「・・・・・・でも遅いよな。祭りはもう終わってんだろ?」
「宿とかに二人でしけ込んでたりしてねーかな」
「・・・・・・有り得る・・・・・・」
「有り得るな」
「ああ。有り得る」
「むしろしっくりくる」
彼方様より